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東京高等裁判所 昭和57年(く)351号 決定 1983年1月12日

少年 J・S(昭和四二・九・二九生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、附添人○○○○名義の抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、原裁判所は、アリバイを主張して非行事実を否認している少年に対し、その犯罪の成立についてはその証明が十分であるとしたうえ、不処分の決定をしているが、原決定には決定に影響を及ぼす重大な事実の誤認があるというのである。

そこで、まず、本件抗告の適否について検討してみるに、少年の保護事件につき家庭裁判所のなした決定に対する不服申立ての方法として、少年法は、その三二条において、保護処分の決定に対し抗告することができる旨規定しているけれども、同条以外には抗告を認める趣旨の規定を設けていないことに徴すると、同法二四条一項所定の保護処分決定に対してのみ抗告を許し、それ以外の同法の規定する決定に対しては不服申立てを許さない趣旨であると解するのを相当とする(少年法一八条二項に関する最高裁判所昭和四〇年六月二一日決定、刑集第一九巻第四号四四八頁参照)。所論は、この点について、非行事実が認定されて断罪された少年に対し、上訴の機会を与えていないと解するとすれば憲法三一条に違反する旨主張する。なるほど、人身の自由を拘束するなど実体的に不利益な終局的保護処分に対しては、人権保障の見地から上訴により救済の途を開いておくことが要請される(少年法三二条以下の抗告に関する規定は、この要請を満たすために設けられた規定である。)けれども、本件のような少年法二三条二項による保護処分に付さない旨の決定は、たとえそれが非行事実を認定したうえでの決定であるとしても、事後の保護手続を進行させず、家庭裁判所限りで事件を終結させるにすぎないものであるから、これに対する不服申立ての途が設けられていないとしても、そのことが憲法三一条に違反するとまでは考えられない。

ところで、記録によると、原裁判所は、昭和五七年一一月一九日、本件保護事件につき、少年本人の非行事実を認定したうえ、これに少年法二三条二項を適用して、少年本人を保護処分に付さない旨の決定を言い渡したことが認められる。しかしながら、右決定は、少年法二四条一項所定の保護処分に当らないことが明らかであるから、本件抗告の申立ては不適法といわなければならない。

よつて、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条を適用して本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 海老原震一 裁判官 杉山英巳 新田誠志)

〔編注〕 再抗告審(最高一小 昭五八(し)一〇号号 五八・二・二八再抗告棄却)

抗告申立書は省略した。

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